世界のストリートフードをデータで読み解く:文化・宗教・経済が交わる現場
ゆかり
2025/05/28
はじめに
ストリートフードは、単なる手軽な食事という枠を超え、その土地の文化や伝統、社会構造を映し出す“食の窓”です。世界4,500種類以上の屋台料理を対象としたデータセットをもとに、各国のストリートフードが持つ物語や、食を通して見える社会背景を探ります。
※本稿の分析には kaggle のグローバル・ストリートフード・データセット および Powerdrill を使用しています。興味がある方はご自身でもデータ分析を始められます!
1. 菜食ストリートフードが多い国・少ない国は?
主なデータ:
多い国: エジプト(100%)、イスラエル(100%)、トルコ(70.15%)
少ない国: ナイジェリア(0%)、南アフリカ(0%)、アメリカ(33.17%)
傾向・背景
エジプト、イスラエルの屋台料理は完全菜食中心。エジプトでは、農業を基盤とした伝統やイスラム教の植物重視の習慣が、野菜料理の普及の土壌となっています。
一方ナイジェリアや南アフリカは、畜産中心で肉料理が主流。地域経済や食文化の影響が色濃く反映されています。
ポイント
ビジネス視点: 菜食主要国(エジプト・トルコ等)では多彩な植物性メニューが需要大、肉中心地域ではボリュームのあるメニューが好まれます。
旅行者視点: 南アフリカ等肉中心国では、菜食選択肢が限られるためベジタリアンの方は軽食持参がおすすめです。

2. インドはなぜ「菜食大国」なのか?(菜食比率68.77%)
インドの屋台料理992品中682品が菜食。
文化背景: ヒンドゥー教の「アヒムサー(非暴力)」やジャイナ教のベジタリアニズムが生活に根付き、野菜中心の食習慣を生み出しています。
経済事情: ヒヨコ豆やレンズ豆、米や小麦など安価な主食・穀物が主材料。たとえば「ワダパヴ(Vada Pav)」(約320円)は豆やイモ中心で、低コストかつ栄養価も抜群。
ポイント
地元食材を活かしたローコスト運営は、同様の経済構造を持つ国で応用可能。
宗教価値観と味覚の両方に訴えるメニューが、屋台食として強い支持を得ています。
3. 中東で菜食が根付く理由 ~ 信仰と食文化の融合
データ: イスラエルは全料理がベジタリアン、レバノンは47.46%が菜食。
宗教的背景: イスラエルではユダヤ教のコーシャ規定で肉・乳製品の分離が求められ、野菜料理が発展。レバノンでもイスラム教の食規定や地中海沿いの豊かな農産物の組み合わせで、ファラフェルなど多様な菜食料理が定着。
ポイント
宗教的な食規則が新たなマーケットや強いニーズを生み出す土壌となっています。
菜食・肉両方のバランス型メニューが、観光客を含め幅広い層に支持されています。
4. 日本は菜食ストリートフードが少ない?(40.14%の現実)
データ: 日本の屋台料理のうち約6割が非菜食。「たこ焼き」などの魚介・肉料理が観光客にも高い人気。
要因: 日本は島国で海産物と肉の文化が色濃い。さらに観光地化が進み、外国人が“日本らしい”肉・魚グルメを求めるため、屋台メニューも非菜食中心になる傾向があります。
ポイント
観光地では菜食メニューが限られる傾向に。環境意識の高いツーリスト向けベジ/ヴィーガン専門屋台は今後のビジネスチャンスに。
伝統食の新解釈(例:きのこ入りたこ焼き等)で幅広いニーズに応える工夫も有望です。
5. 経済が菜食ブームを後押し?~タイの場合(菜食比率65.93%)
データ: タイには「パッタイ」(約470円)や「ロティ・サイマイ」(約500円)など計477種類もの菜食ストリートフードが存在。
背景: 熱帯気候を活かした野菜の安定供給や、普段使いの屋台で「安くて腹持ちの良い」菜食メニューが好まれる現実が影響。
ポイント
気候条件が安価な新鮮野菜の供給を実現。他の熱帯地域でも参考になります。
手軽に食べられる即席屋台メニューが、忙しい都市生活者の野菜摂取ニーズにマッチ。
6. 材料が屋台メニューの人気を左右
主要材料(ベジメニュー): チーズ(682品)、スパイス(518品)、小麦粉(493品)
トレンド: チーズや小麦粉は日持ち・汎用性が高く、屋台運営に最適。メキシコの「ケサディーヤ」(約150円)はチーズとトルティーヤのシンプル構成で、コスト低減と効率化が叶います。
ポイント
最小限の材料構成がロス削減と時短につながり、限られた設備の屋台に好都合。
チーズやスパイスなど、世界共通の人気食材を活かしたメニューは多文化対応にも効果的。
7. ベジメニューに「焼く・揚げる」調理法が多い理由
データ: 焼き(549品)、揚げ(485品)、組み立て(480品)が主流。
現場事情: インドの「サモサ」などの揚げ物は調理が早く、トルコの「シミット」(焼きパン)は前もって作り置きが可能。サクサク・ふわふわ感は顧客にも人気。
ポイント
移動販売や短時間勝負の現場では、焼き物や揚げ物の出番が多く、効率・保存性からも理にかなっています。
8. ストリートフードが⽂化・食トレンドの未来を切り拓く
世界的傾向: 多国籍料理・フュージョンメニューが増加し、ストリートフード人気は広がりを見せています。
意味合い: 屋台は新たな食の実験場・異文化交流のきっかけとなり、主流レストランやさらなるグローバル化への架け橋となっています。
結論:
ストリートフードは、世界の食文化イノベーションと国際的な対話を促す触媒的存在です。
総括
ストリートフードは、伝統・経済・宗教・革新が織りなす鮮やかな“文化の鏡”です。世界4,500種類以上の屋台料理を分析した結果、社会の価値観や地理的現実、実際の現場事情がストリートフードに色濃く反映されていることが分かりました。
1. 多様な菜食文化の背景
エジプト/イスラエル(100%):古代農耕・宗教規定が菜食主流を生み出し、コーシャ規則により菜食と肉料理が共存。
トルコ(70.15%)/インド(68.77%):イスラム教やヒンドゥー・ジャイナ教の影響、豆類やスパイスを使った安価メニュー(例:ワダパヴやギョズレメ)が日常に溶け込む。
ナイジェリア/南アフリカ(0%):畜産中心経済で肉料理が圧倒的。アメリカ(33.17%)でもホットドッグやチーズステーキ等、肉料理の存在感が大きい。
重要ポイント:
宗教的・農業的伝統が食文化を大きく左右し、その土地で屋台事業を展開する際には地域の価値観への配慮が不可欠。旅行者も現地の食トレンドを事前リサーチしておくと快適に過ごせるでしょう。
2. インドのベジタリアン優位:「信仰」と「経済合理性」の両輪
宗教的価値観が肉食志向を抑え、経済的にも豆や穀物の調達コストの低さが圧倒的な競争力に。
模倣可能な点:「地元で安価に手に入る農産物」をベースに、文化的背景と経済メリットを両立させた菜食屋台モデルは他国でも十分活用可能。
3. 中東:宗教規定と農業伝統が醸す多層的食文化
コーシャやハラールといった食規定が市場に独自性を生み出し、ファラフェルやフムス等、多様な菜食ストリートフードが根付いています。
ストリートフードは、歴史、文化、経済、革新という多様な糸が織り成す“食の万華鏡”です。屋台グルメ1品1品には、その土地ならではの背景や価値観が詰まっています。私たちが世界のストリートフードを味わう時、それは単なる食事体験を超え、その背後にある人々の暮らしや物語そのものに触れているのです。